優眼我観





昇霊銃を構えて 悟浄を狙っている三蔵のこめかみには 

明らかに怒りが浮かび目は鋭い光を放っている。

「三ちゃんそれは あんまりじゃねぇの?

俺がに 触ったのはほんのちょっとだけじゃん。

悟空の方が ベタベタに触ってんじゃんか。」

悟浄が 少し焦ったように 弁解する。

「うるせぇ、河童は大人しく じょうぶつしやがれ。」そう言い放つと

2発の銃声が 辺りにとどろく。

悟浄のなびいた髪が 落ち着いた頃には 

ジープの中はつかの間の静けさに包まれていた。





前を向いた三蔵がナビに座ったのを確認して 八戒は ジープのスピードを上げた。

「悟浄、いい加減にして下さいよ。

三蔵が本気を出す前に に触るのはあきらめて下さいね。」

運転のために前を見ている 八戒に釘を刺されて 悟浄は更に落ち込んだ。

「でも うまく外すわね。

悟浄が少しでも避ける方向が違えば ど真ん中に当たっているはずだもの。」

感心したようなの言葉に 悟空も頷く。

「いや、俺は本気で 撃ちに行っている。」

物騒な言葉を吐いて 三蔵は煙草へと火をつけた。






しばらくして 着いた街の宿に落ち着くと 八戒と悟空は買い出しに、

悟浄は ナンパという名の偵察に出て行った。

三蔵と2人になったは 眼鏡をかけて新聞を読んでいる三蔵の傍の窓辺で

静かに 繕い物をしていた。

こんな事はよくあることで 三蔵もも さして気にとめない。

が手にした悟空の服は 棘のある草が引っ掛かっていて 

それがなかなか取れなかった。

焦れたは ぐいっと無理にそれを引っ張った。

その棘が 指先に刺さって は「痛いっ。」と思わず声を上げた。

突き刺した棘は 抜けずにそのままの指に 刺さっている。

爪の先で 押してみたが なかなか取れない。






背中合わせの形で 座っていた三蔵が のそんな様子に気付いて

新聞をたたむと 立ち上がって傍によってきた。

「見せてみろ。」

そう言って差し出された手に は自分の手を預けた。

「右手の指に刺さってしまったから うまく取れなくて・・・・」

棘の具合を見る三蔵を見上げたは そのまま じっと見入ってしまった。

新聞を読んでいたためか 愛用の眼鏡をしたままの三蔵だったから・・・・。







新聞を読むときや 書類などの活字を追うときぐらいしか 眼鏡をかけないが

三蔵が視力が悪いのは確かなことだ。

よく 目が悪いものは 目つきも悪いというけれど、

三蔵も最初はそうだったのだろうと思う。

見難いために 目やその周りの筋肉に力を込めて 焦点を合わそうとしたのだろう

自然 目は細められ懸命に見ようとすればするほど 目つきは鋭くなる。

それが癖になるのと あの性格とがあいまって 三蔵の僧侶とは思えぬ

俺様な態度と 鋭い目つきを形成した事は容易に理解できると は思った。







だが 今は 眼鏡をかけているせいか 普段と違って 自然に見えているために

目元に力が入っていないので とても優しい目をしているように見える。

の棘が刺さった指先を見て 棘を抜くことに集中しているので

じっと見つめていても 何も言わない。

三蔵が 棘を出すためにぐっと力を入れて 指を爪の先で押した。

「痛いっ。」

三蔵に見とれていたは 油断していたために 突然の傷みに つい声を上げた。

「もうちょっとだ、我慢しろ。」

そう言って三蔵は の指先から棘を抜いてくれた。

棘を出すために 少し傷つけたので そこは血がにじんでいる。

「棘さえ抜けば大丈夫だろう。」

三蔵は そう言うと の手を掴んだまま その指を口に含んだ。







その思いもよらない行為に は戸惑う。

「三蔵?」

指を口に含んだままの三蔵は 何も答えずに 傷がある辺りを舌で丁寧になぞる。

傷を舌で触られる痛みよりも 違う感覚がの中で芽生える。

指を強く吸われて は思わず「あっ・・・。」と 声を漏らした。

その声に 三蔵は指をくわえたまま 口角を上げた。

いつもと違って 眼鏡越しの三蔵の目は 少し笑んだだけでも 優しい色をたたえていて

は目を放すことができない。

力の入っていない目元のせいで 紫水晶の瞳は 同じ人物の瞳だとは思えないほどだ。

眼鏡越しになるだけで こんなにも違うものだろうか・・・・・。

その三蔵が 指をくわえたまま の顔に近づいてくる。






指を口から放し 眼鏡にも手をやって外そうとしている。

「三蔵、眼鏡はかけたままにして・・・・。」

からの注文に「邪魔になる。」と 三蔵はうるさそうに ひと言こぼした。

「でも 眼鏡をかけた三蔵は とても素敵よ。

眼鏡をしていてくれるのなら どんな事でも聞いてあげたくなるくらいに・・・・。」

が漏らしたひと言に 三蔵はすぐに反応した。

「どんなことでもか?」

「今日一日 眼鏡をしていてくれるのなら・・・。」

「その言葉 忘れるなよ。」

三蔵は うれしそうに言うと 願いどおり眼鏡をかけたまま の唇を奪った。






その日 一日。

三蔵は 眼鏡をかけたまま過ごした。

そんな三蔵を見て うれしそうに微笑むを 八戒や悟浄・悟空は不思議そうに見ていた。







後で 三蔵が どんな願い事を言ったのかは だけの秘密。



 





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第4回アンケート「次のカウンタードリのお相手は?」で 何度もコメント付きで
ご回答くださった伽凌様に リク権贈呈にて頂いたリクドリです。
リク内容は「眼鏡の三蔵」でした。伽凌様ありがとうございました。